令和元年改正・会社法の概要(株主総会に関する規律の見直し)

 

概説

会社法の一部を改正する法律(令和元年12月4日成立・令和元年法律第70号)は、令和3年3月1日において部分的ではあるが施行されることとなった。本稿は、その概要をまとめておくものである。

今回の改正分野は多岐にわたる。本稿では、Ⅰ株主総会に関する規律、Ⅱ取締役等に関する規律の見直し、Ⅲ社債の管理等に関する規律の見直しに大別して紹介することとしたい。

株主総会に関する規律の見直し

この分野の改正は、デジタル・トランス・フォーメーション【DX】を意識したものといえる(詳しくは、以下の記事を参照。)

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 株主総会資料の電子提供制度の創設

改正点について

会社法における「株主総会」の捉え方は、文脈によって異なる。一つは、会社の意思決定機関という文脈であり、もう一つはこの意思決定を行う会議体としての文脈である。

従来の機関の意味としての株主総会は、株主が特定の場所に一同に会する物理的会合が前提とされてきた。物理的会合としての株主総会開催にあたっては、以下の招集手続がとられてきた次第である。

それは、株主総会の日時・場所、議題などを取締役会で決定(298条1項)、これらを記載した通知書面を総会開催の2週間前までに株主に発送することを原則とするものである(299条)。

この招集通知は、株主が総会に出席するかどうかの判断資料となるため、株式会社は招集通知に記載されていない事項について総会で決議することができない(309条5項)。すなわち、招集通知は株主の総会出席の判断資料にすぎず、総会に出席し討議を深めることを会社法は予定しているものといえる。

だが、株主の多い株式会社の総会において討議を深めることは現実的ではない。あくまで一例ではあるが、(株)オリエンタルランド株主通信によると同社の株主数は19万8087名である。

そこで、株主総会の意思形成機能のうち重要な議決権行使のみを書面によって完結させる制度を用意している。株主数1000人以上の株式会社は原則として、この書面による議決権行使()を採用しなければならない。

書面による議決権行使を採用した株式会社は、招集通知とともに議決権の行使について参考となる情報を記載した書類(株主総会参考資料)の交付もしなければならない(301条1項、302条1項)。株主は、招集通知とこの株主総会参考資料をもとに出席の当否と議案への賛否の態度を決めることが想定されている。

本改正では、株主総会参考資料を電子ファイル形式でウェブサイトに掲載することで、書面による送付を省略することが可能となった。

改正条文(新設)

第325条の2 (電子提供措置をとる旨の定款の定め)

株式会社は、取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続を行うときは、次に掲げる資料(以下この款において「株主総会参考書類等」という。)の内容である情報について、電子提供措置(電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合にあっては、ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるものをいう。以下この款、第九百十一条第三項第十二号の二及び第九百七十六条第十九号において同じ。)をとる旨を定款で定めることができる。この場合において、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りる。

二 議決権行使書面

三 第四百三十七条の計算書類及び事業報告

四 第四百四十四条第六項の連結計算書類

第325条の3 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、第二百九十九条第二項各号に掲げる場合には、株主総会の日の三週間前の日又は同条第一項の通知を発した日のいずれか早い日(以下この款において「電子提供措置開始日」という。)から株主総会の日後三箇月を経過する日までの間(以下この款において「電子提供措置期間」という。)、次に掲げる事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない。

三 第三百二条第一項に規定する場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項

四 第三百五条第一項の規定による請求があった場合には、同項の議案の要領

五 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第四百三十七条の計算書類及び事業報告に記載され、又は記録された事項

六 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第四百四十四条第六項の連結計算書類に記載され、又は記録された事項

七 前各号に掲げる事項を修正したときは、その旨及び修正前の事項

2 前項の規定にかかわらず、取締役が第二百九十九条第一項の通知に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、前項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

3 第一項の規定にかかわらず、金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が、電子提供措置開始日までに第一項各号に掲げる事項(定時株主総会に係るものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類及びこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を同法第二十七条の三十の二に規定する開示用電子情報処理組織(以下この款において単に「開示用電子情報処理組織」という。)を使用して行う場合には、当該事項に係る情報については、同項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

※「電子提供装置」とは、インターネットに接続された自動公衆送信装置を使用して株主が情報の提供を受けることができる状態に置く装置のことである。

株主総会の招集の通知等の特則)

第325条の4 前条第一項の規定により電子提供措置をとる場合における第二百九十九条第一項の規定の適用については、同項中「二週間(前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))」とあるのは、「二週間」とする。

2 第二百九十九条第四項の規定にかかわらず、前条第一項の規定により電子提供措置をとる場合には、第二百九十九条第二項又は第三項の通知には、第二百九十八条第一項第五号に掲げる事項を記載し、又は記録することを要しない。この場合において、当該通知には、同項第一号から第四号までに掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

一 電子提供措置をとっているときは、その旨

二 前条第三項の手続を開示用電子情報処理組織を使用して行ったときは、その旨

三 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

3 第三百一条第一項、第三百二条第一項、第四百三十七条及び第四百四十四条第六項の規定にかかわらず、電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社においては、取締役は、第二百九十九条第一項の通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類等を交付し、又は提供することを要しない。

4 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社における第三百五条第一項の規定の適用については、同項中「その通知に記載し、又は記録する」とあるのは、「当該議案の要領について第三百二十五条の二に規定する電子提供措置をとる」とする。

 

(書面交付請求)

第325条の5 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主(第二百九十九条第三項(第三百二十五条において準用する場合を含む。)の承諾をした株主を除く。)は、株式会社に対し、第三百二十五条の三第一項各号(第三百二十五条の七において準用する場合を含む。)に掲げる事項(以下この条において「電子提供措置事項」という。)を記載した書面の交付を請求することができる。

2 取締役は、第三百二十五条の三第一項の規定により電子提供措置をとる場合には、第二百九十九条第一項の通知に際して、前項の規定による請求(以下この条において「書面交付請求」という。)をした株主(当該株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための基準日(第百二十四条第一項に規定する基準日をいう。)を定めた場合にあっては、当該基準日までに書面交付請求をした者に限る。)に対し、当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければならない。

3 株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部については、前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる。

4 書面交付請求をした株主がある場合において、その書面交付請求の日(当該株主が次項ただし書の規定により異議を述べた場合にあっては、当該異議を述べた日)から一年を経過したときは、株式会社は、当該株主に対し、第二項の規定による書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には一定の期間(以下この条において「催告期間」という。)内に異議を述べるべき旨を催告することができる。ただし、催告期間は、一箇月を下ることができない。

5 前項の規定による通知及び催告を受けた株主がした書面交付請求は、催告期間を経過した時にその効力を失う。ただし、当該株主が催告期間内に異議を述べたときは、この限りでない。

 

第325条の6 第三百二十五条の三第一項の規定にかかわらず、電子提供措置期間中に電子提供措置の中断(株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったこと又は当該情報がその状態に置かれた後改変されたこと(同項第七号の規定により修正されたことを除く。)をいう。以下この条において同じ。)が生じた場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、その電子提供措置の中断は、当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさない。

一 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること。

二 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の十分の一を超えないこと。

三 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の十分の一を超えないこと。

四 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。

改正による変化
  • 従前は株主の人数分の紙媒体を印字するコストがかかったが、これを削減できる。OLCならば19万人分の招集通知+株主総会参考資料の印刷の煩雑さから免れることができる。
  • 会社の負担軽減により資料の提供を前倒しすることができる。これにより株主の熟慮が期待できる、郵送する必要がなくなることで離隔地(海外など)の投資家によるマネー流入が期待できる。

株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

改正点について

株主が同一の株主総会において提出することができる議案の数を10までとする上限を新たに設けることとされた。

その経緯としては、部会資料3によると以下の説明がなされている。

「昭和56年商法改正により導入された株主提案権の制度の趣旨は,株主の疎外感を払拭し,経営者と株主との間又は株主相互間のコミュニケーションを良くして,開かれた株式会社を実現しようとするものである。しかし,近時,株式会社を困惑させる目的で議案が提案されたり,一人の株主により膨大な数の議案が提案されるなど,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られる。株主提案権が濫用的に行使されることにより,株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ,株主総会の意思決定機関としての機能が害されることや,株式会社における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加するということが弊害として指摘されている。
一定の場合には株主提案権の行使が権利濫用に該当することを認めた裁判例(東京高判平成27年5月19日金判1473号26頁)も見られるが,どのような場合に株主提案権の行使が権利濫用に該当すると認められるかは必ずしも明確でなく,実務上,株主提案権が行使された場合には,株式会社が株主提案権の行使を権利濫用に該当すると判断することは難しいと指摘されている。
そこで,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置として,株主が提案することができる議案の数を制限することや,株主による不適切な内容の議案の提案を制限することが考えられる。 」

改正条文

第305条

1項~3項 略 

4項 取締役会設置会社の株主が第1項の規定による請求をする場合において、当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは、前三3項の規定は、10を超える数に相当することとなる数の議案については、適用しない。この場合において、当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については、当該各号に定めるところによる。

一号~四号 略

5項 前項前段の10を超える数に相当することとなる議案は、取締役がこれを定める。ただし、第1項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする2以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、取締役は当該優先順位に従い、これを定めるものとする。

改正による変化
  • 数による制限がかけられることにより、濫用的な株主提案権行使が抑制され、本来の制度趣旨に適合したものとなると期待できる。