2021年春・最近読んだ論文の要約・コメント

※他にも読んだ論文はありますが、ひとまず公開する形をとります。後日追記して更新することがあります。

磯部哲「『自粛』や『要請』の意味」

まん延防止等重点措置についての問題点の指摘

「最大の問題は、都道府県知事のとりうる重点措置の内容、その期間や範囲、対象職種・行為等について法律上は何らの限定もなく、感染症対策として実効的で妥当な措置がとれるような保障がないようにさえ見えてしまう点である。」

 令和3年改正の新型インフルエンザ等特別措置法についての言及や、感染症法ー特措法の関係性について叙述あり。

 

野坂泰司「いわゆる目的効果基準について」

高橋・古希(下)283頁~

判例が用いる目的効果基準についての批判

憲法政教分離原則の基礎となる指導原理としては、国家が宗教に中立であることを要求するものであるが、国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的・効果に鑑み、我が国の社会的文化的諸条件に照らし、相当とされる限度を超えると認められる場合にこれを許さないものと理解されている。この理解は、完全に政教分離原則を徹底すると、社会生活の各方面においてあらゆる不都合が生じることを危惧したものといえる。

そして、「効果」のメルクマールとして、大法廷判決は「参列者及び一般人の宗教的関心を特に高めるものかどうか」を挙げている。

このような目的効果基準論の批判としては、大別して基準としての有用性を問う(1)全面否定論と同基準を緩やかな分離を是認しうるからより厳格な基準にするべきとする(2)再構成論がある。

(1)全面否定論

この見解は、政教分離原則が前提とする完全分離の徹底放棄論を批判するものである。すなわち、憲法は国家と宗教との完全分離を原則としているから、政教分離原則は基準としての用をなしていないとする批判である。

これを主張する論者としては、尾崎裁判官ほか玉串料事件の各意見にみることができる。

全面否定論に対して、野坂は①習俗的行事化されているものを完全分離原則の例外として許容しうるか、仮に許容しうる場合には宗教的意義を失っているかどうかの判断ポイントは何か、②全面否定論はそもそも目的効果基準論に代わる適切な判断基準を提示しきれているのかという「疑問」を投げかけている。

(2)再構成論

この議論は、目的効果基準が多くの場合において合憲判断を導いているところ、これが厳格な基準ではないものと理解でき、緩やかな分離を是認しうることは肯定できる。そして、目的効果基準が緩やかな基準であることを明らかにするために、レモン・テストとの対比の中で議論を展開している。

レモンテストはアメリカの国境禁止条項違反をめぐる訴訟で措定された判断枠組みである。

①制定法は世俗的な立法目的を持たなければならない。

②その主要な直接的な効果が宗教を促進・抑制することはない。

③制定法は宗教に対する政府の過度な関わり合いを促進するものであってはならない

このレモンテストは、いずれか一つの要素ですら欠ければ違憲となる点で厳格なテストといえよう。

目的効果基準との対比で指摘すると、1目的の世俗性は①を意識、2効果の非宗教性は②を意識しているといえるものの、③は基準の中で現出しきれていない。すなわち、目的効果基準は「政府の過度な関わり合いを促進するものであってはならない」とする視点に欠けていると評価される。

また、目的効果基準は①②③のいずれか一つでも欠ければ違憲になりうることについて、示されていない。

また、考慮要素が「一般人」や「社会通念」の見地を基準とした判断をしているところ、多数者の感覚に依拠した判断をしている。これは少数者への抑圧に繋がりうるのではないか、との批判もある。

さらに、「行為者」の主観的な意図による判断も含まれているところから、行為が及ぼす宗教性からの判断ではないといえる。これも緩やかな基準と評価される論拠の一つといえよう。

このような批判の営為に対して、野坂はレモンテストが「当のアメリカの政教分離訴訟において、(中略)一貫して適用されているわけではない」と指摘している。 

この論文の意義について

アメリカのレモンテストないしエンドースメントテストと目的効果基準の異同について明らかにされている。目的効果基準は、「総合考慮」を通じた関わり合いの宗教的性格を判断し、その後に国家行為の性質を判断するもので、このような事例判断の積み重ねによって判断枠組みが形成されていることが明らかにされている。

政教分離原則のうち、目的効果基準と空知太基準の関連性についても藤田調査官解説を踏まえた書き分けがなされている。また、白山ひめ神社事件や豊平神社事件についても簡潔に事案の概要・判旨が整理されていた。政教分離原則の諸判例の判断枠組みのあり様をコンパクトに理解できるものであった。

最後に、裁判実務が抱える課題として、目的効果基準は総合的判断であってその判断過程が不明瞭であること、判断根拠の明示が欠けている点が指摘されている。