法クラがマジレスする『アナ雪』①

Twitterでは何度か書きましたし、Instagramにはキャスト一覧の写真も掲載しましたが、12/5に二度目の『アナと雪の女王』(劇団四季)を観劇しました。大学の懸賞論文集の趣味欄に「舞台観劇」と書いた以上は、足繁く四季劇場に通う必要があります。劇団四季のチケットは数か月単位で発売され、ロングラン公演で大人気の『アナ雪』は既に2022年年末までのチケットが殆ど完売されています。

そんな来年末までどうやって予定を見据えているのかよ?と思うかもしれませんが、大半は四季会員。年間3300円を支払って、S席は約1000円引きを勝ち取り、リセールは月5回までは手数料無料で行えるのです。

「とりあえずチケットを確保しておいて、都合が悪くなったらリセールすればよい」

そう考える四季勢は、指が勝手に動いて再販チケットを手中におさめる舞浜勢よりタチが悪い(忠実なお客様)かもしれません。

 

さて、今回は『アナと雪の女王』の舞台、アレンデール王国の国家体制についてマジレスしていきたいと思います。四季のネタバレは避けるように書きますが、基本的には映画を観ている人であれば分かるように書きます(というかマジレスの対象のシーンは四季も映画も完全一緒です(笑))

 

1 アグナル王とイドゥーナ妃の死

さて、物語冒頭で生来より魔法を手にするエルサの手がかりをさぐるため、王と妃は船旅に出て崩御されます。

いくら愛娘のためとはいえ、国王・国王妃が同時に王国を離れるのは国家の危機管理上リスクがありすぎるのでは?

まず現代の国家ではありえないことです。アレンデール王国にはアグナル王の弟妹はいないようですし、後にエルサが戴冠していることからおそらく男女区別なく王位を継承できるものと思われます。そうだとすると、王位継承順位は国王妃、エルサ王女(当時)、アナ王女(当時)と続くことでしょう。

未成年のエルサ・アナを置いて国王・王妃ともに王国を後にすれば、彼らに万が一の事態があった場合にはどのように王国の政治体制を維持するつもりだったのでしょうか。

優秀な参謀がいたのでしょうか、仮に右腕のような人を王国に残しても本当にその人が優秀ならば「国王と国王妃が同時に王国を留守にするのはリスク管理が甘すぎます」と進言するべきでしょう。それともその参謀もハンス王子のように、王政を掌握するために悪だくみをしたのでしょうか。

 

現代の国家では元首に欠缺があった場合に備えて順位を定めておきます。日本の場合は元首が天皇か、内閣総理大臣かめんどくさい議論があるのでそれについて深く立ち入らないでおきますが・・・

天皇の場合には日本国憲法4条2項に「天皇は、法律の定めるところにより、その国事行為を委任することができる」と定められており、この規定に基づいた国事行為の臨時代行に関する法律2条では「天皇は、精神・身体の疾患か事故があるときは、摂政を置くべき場合を除き、内閣の助言と承認により、国事行為を皇室典範の規定により摂政となるべき順位にあたる皇族に委任して臨時に代行させることができる」と定めています。

天皇崩御されれば直ちに皇位継承順位に従って、皇位が継承されますが、そうではない一時的な場合においてもこのようにつつがなく国事行為が執り行われるような制度設計がとられています。そもそも国事行為とは、憲法7条に列挙されている事由に尽きるわけですが、これらはすべて天皇による儀礼的な行為によって効力が生ずるものと考えられていますから、天皇の一時的な都合によって遅滞が生ずることがあってはならないのです。

内閣総理大臣の場合、これ欠けたときは内閣が総辞職すると憲法70条前段で定められています。ここでいう「欠ける」とは、内閣総理大臣の死亡が典型例で他にも亡命や国会議員の辞職がこれにあたると説明されます。内閣総理大臣は「国会議員の中から」国会の議決で指名されることから、国会議員を失職したら内閣総理大臣を務めることができないのです。

このように、内閣総理大臣が仮に死亡した場合には内閣が総辞職する原因となるわけですが、次の内閣が成立するまでに空白期間が生じてしまうと、政治の混乱につながりかねないことが考えられます。そこで、憲法71条は「内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまではその職務を行ふ」と定めています。すなわち、空白期間を埋めるための職務遂行内閣として従前の内閣が存置されるのです。

そこで、職務遂行内閣において誰が内閣総理大臣としての役回りをするのか問題になります。この場合には内閣法9条に従って「予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う」ことになります。

この内閣総理大臣臨時代理は組閣の際に指定され、現内閣では①松野官房長官、②野田聖子大臣、③林芳正外務大臣、④鈴木俊一財務大臣、⑤金子原二郎農水大臣の順に定められています。通常は官房長官が臨時代理の1番目につけられることが多いですが、重鎮の大臣に臨時代理の1番目を充てるケースもあります。この場合に「副総理」と呼ばれるのです。

 

以上のように日本における執政権の危機管理策としてどのような制度が採られているか説明してまいりました。外遊や地方遊説の際には臨時代理予定者や官房副長官は必ず在京待機しているのが慣例ですので、欠缺や病気による長期離脱だけでなく総理外出中の災害などの危機対応にも準備されているといえるでしょう(ときおりこの在京待機が破られている間に豪雨災害や地震が発生すると野党の攻撃材料になったりなかったり)

アレンデール王国の危機管理にマジレスしすぎるのは良くないのでこのあたりで筆を置くことにします。