「年パス規約に基づけば、本来期間延長・払戻し措置は不要」は本当か?

結論

事情変更の法理が妥当するから、オリエンタルランドは期間延長・払戻し措置をするべき。

 はじめに

2020年6月23日昼頃、国際私法の判例百選と格闘していたところ驚きのニュースが耳に入る。7月1日からディズニーリゾートが営業を再開するという。(詳細については、(株)オリエンタルランド、「東京ディズニーランド®/東京ディズニーシー®再開日および今後のパーク運営方法について 」https://media2.tokyodisneyresort.jp/home/tdr/news/release/reopen.pdf?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=200623 2020年6月23日、最終閲覧を参照されたい。)

公式発表の上記資料をみると、オリエンタルランドは営業再開以後のパスポートについて1デーパスポートおよび入場時間指定のパスポートを発売することにより、ゲストの混雑緩和を企図していると思われる。なお、「年間パスポートはすべてご入園いただけません」とある。

オリエンタルランドが同日した年パスに関する発表には、以下の二点がある。有効期限が2020年2月29日以降のものである場合①有効期限の延長もしくは払い戻し、②グッズのオンライン購入と抽選によるご入園という措置を予定しているというものだ。

営業再開という吉報に接しつつも、年パス民にとっては不利益的な内容も含まれる公式発表になっただけに、複雑な感情になったのは筆者も同様である。いっぽうで年パス契約の際、契約条項を再読すると「天変地異等の不可抗力その他当社の責めに帰さない事由によりパーク営業に支障が生じた場合、本券の補償はいたしかねます」とある。このような契約条項と、年間パスポートの有効期限延長、払い戻し措置の法的な関係性やオリエンタルランド側の契約上の義務について検討し明らかにすることを本稿の主題としたい。

本論

年パスとコロナ禍

年パスの契約条項についてはおおむね前述したとおりである。まずは、今般のコロナ禍における休園措置の事実関係について若干の整理をしよう。休園期間は2月29日から始まるもので、これは安倍首相の「今後二週間は大規模イベントを自粛するように」という要請にならうかたちで行われたものであった。当初は、三月上旬ごろまでとの見通しで休園されたわけだが、これが延長され現在に至るわけである。あいだ、四月から五月にかけて特措法に基づく緊急事態宣言が発令されたが、それが解除された後も休園を継続している。

第一に確認するべきは、首相の要請に法的拘束力はないという点である。オリエンタルランドは要請に従わずとも営業を継続することは少なくとも法律のレベルでは可能であった。そうだとするならば、首相の要請があっといえども、究極的には休園判断はいち企業の経営判断にすぎないと評価できる。

第二に、緊急事態宣言が発令されたとしても休業要請(指示も同じ)に法的拘束力がない。行政講学上、法的拘束力の有無はその後に予定される不利益措置の有無で判断すると考えられている。特措法には、要請(指示)違反の効果として何ら不利益措置を予定していないのである。本論から若干外れるが、休業指示を「法的拘束力あり」と伝えるメディアがあった。それは、店名等の公表措置を不利益措置と考えてのことだろう。しかし、公表措置は単なる事実周知制度にすぎないから、公表されたとしても直ちに名宛人(公表されたお店のこと)の権利利益を制限するとはいえないと考える[1]

契約法の観点から

契約は守られなければならないの原則

そもそも契約は、複数の者の合意によって当事者間に権利義務を発生させる制度であり、取引の手段であると説明される。そのため、当事者間の合意は当事者を拘束する効果がある。そのため、契約における合意内容である年パスの契約条項は、われわれ年パス民とオリエンタルランドを拘束するというのが原則である。これを、「契約は守られなければならないの原則」という(そのままですね)。

同原則の例外:事情変更の法理

もっとも、同原則には例外がある。それは、契約当事者間の予測に反する事態が生じたときに契約の拘束力から解放する事情変更の法理というものである(事情変更の原則、という学者もいるが名前の違いにすぎないので気にしない[2])。これは、「契約締結後、その基礎となった事情の当事者の予見しえない変更のために、当初の約束に当事者を拘束することが極めて苛酷になった場合に、契約の解除または改定が認められる」とする法理である。

これが認められるための要件を整理すると、①契約成立当時その基礎となっていた事情が変更すること、②事情の変更は当事者の予見したもの、または予見できたものでないこと、③事情変更が当事者の責めに帰することができない事由によって生じたこと、が必要であると考えられている。

コロナ禍における事情変更の法理妥当性

さて、コロナ禍が上記に示した事情変更の法理の要件を満たすかどうか検討しよう。まず、①契約成立当時にコロナウイルスによって4か月もの間休園されるという点は事情の大幅な変更といえる。年パス契約は1年契約だが、4か月とは1年の3分の1を占める極めて長期間の休園と評価できるのがその論拠である。また、②事情変更について当事者は予見していない。私も、オリエンタルランド側も当初は2週間の予定で休園していたからというのがその論拠である。感染症の拡大防止という目的は、契約当事者いずれに起因するものではない、もっぱら外部的要因であることから③当事者に帰責事由はないとひょうかできる。

以上より、事情変更の法理がコロナ禍における年パス契約に妥当するといえる。

事情変更の法理の効果

事情変更の法理が妥当し、当事者が契約の拘束力から解放される場合考えられるのは、①将来に向けた契約の解除(すなわち返金措置)と②契約の追完(すなわち期間の延長)である。上記の評価から契約内容の合意の効力が一部否定される以上、オリエンタルランド側は返金措置と期間の延長を認めるべきというのが契約法上の帰結である。

2021年2月21日追記

東京ディズニーリゾート・年間パスポートは全使用可能日数のうち購入日から休園日までの消費分を控除した全額の返金がなされた。この措置は契約法の帰結として当然のものであるが、同社はその帰結に従ったことを追記する。

さいごに

この記事はあくまで年パス契約と今回のオリエンタルランド側の措置の法的な性質について専門的に分析したにとどまる。

そもそも法律の解釈問題は識者によって見解が異なることが多くある。上記の私の評価や見解も、最高裁で確立した判例によった考えとはいえ必ずその通りになるか、といえばそうではありません。オリエンタルランドのような社会的地位の高い企業は、訴えられるだけで企業イメージを傷つけてしまうので、そのような点を考慮したのだろうと考えられる。

末筆ながら、未曽有のコロナ禍に際してゲストとキャストの安全に配慮しつつパーク営業再開の目途をつけた(株)オリエンタルランドに敬譲の意を表し、筆をおくこととしたい。

 

[1] 公表の趣旨・目的に照らして公表が実際どれほどに制裁的効果を有するかに着目する必要がある。そのため、正確には公表の効果が行政罰と同視し得るほどに名宛人の権利利益を制限すると評価される場合には、公表措置でも処分性有と評価され、法的拘束力を肯定できる。今般の休業指示違反の効果としてなされる公表措置も、行政による「広告」のような位置づけがなされたケースもあることから一刀両断的に法的拘束力を肯定できないというのが筆者の問題意識である。

北村=深澤「事例から行政法を考える」145頁、有斐閣

[2] 潮見佳男『新債権総論Ⅰ』2017年、87頁