8月3日 メモ

  1. 「電話の傍受と通信の秘密」 判例百選59事件
    コメント①
     立山紘毅『電話の傍受と通信の秘密』「憲法判例百選Ⅰ[第7版]」(有斐閣、2019年)所収131頁 「通信傍受法29条に基づく2019年2月の国会報告によれば、2018年1年間で1万回を超える傍受が行われたのに対して、逮捕に至ったのが82人というから、それほど効率の良い捜査手法とも思えない。」
     通信傍受法3条1項柱書は「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」と定めている。(=捜査手法としての補充性)この点からそもそも通信傍受の対象になる犯罪は、捜査が難航している事件であることが予測されるところ、検挙件数の少なさが直ちに通信傍受の捜査手法としての有効性がないことを裏付ける根拠になるとは思えない。


    コメント② 通信の秘密の意義について
     通信の秘密の対象として保護される情報は、(ア)通信の内容に限定されず、(イ)通信の構成要素までをも含むと考えられている(曽我部真裕『通信の秘密』法セミ786号所収62頁)。通信の内容とは、電話の通話内容や電子メールにおけるメールの本文、チャットの内容(TwitterのDMやLINEのトーク等を想定)が挙げられる。何も電話におけるやり取りに限定されず、通信手段全般における用件や本文を包含すると考えているといって差支えないだろう。通信の構成要素は、発信者・受信者の氏名や住所、通信が行われた現在地等
    →通信の構成要素に関する情報から、通信の内容を推知することができる
    →通信の内容だけでは足りず通信の構成要素まで広げて秘密の対象にする必要がある?

    コメント③ 清水真の解説を参照する(清水真『電話検証』「刑事訴訟法判例百選[第10版]」所収70-71頁
    「筆者自身は、監視対象車両に元々積載されているカーナビゲーションシステム等のGPS識別番号を捜査機関が把握し、当該車用の位置情報を探知する、いわゆる非接触型監視は任意処分にとどまるものと考えるが(清水真「GPSと捜査」法教427号41頁以下)、仮に、公権力による一定期間の徹底的・網羅的な位置情報の監視は尾行・張り込みとは質的に異なるという見方を採り、強制処分だと考えるならば検証許可状によることになろうし、本決定の枠組みが参考になるかもしれない。」

    GPS判決(最高裁平成29年3月15日大法廷判決)をめぐって展開される位置情報のプライバシー性と清水の見解はどのような位置関係にあるのか?(位置情報だけに笑)
    領域プライバシー権から空間プライバシー権へ、取得時令状主義のみならず使用時令状主義?
    情報社会の目覚ましい進展によってさらに捜査機関が収集ないし取得する情報がセンシティブなものになるということはあり得るし、AIが捜査法に登場するとなおプライバシー権との規律で様々な問題を先鋭化させかねない。
    AIは社会のスティグマを再度現出させる”差別”発見機

    コメント④ 警察による情報監視への憲法的対抗
    「AIと社会と法 フェイクとリアル」論ジュリ33号(2020年春)第9回 山本龍彦発現より
    ①領域プライバシー権による対抗
     井上正仁・刑事訴訟法百選[10版](2017年)67頁
    ②情報プライバシー権による対抗
      堀江慎司(判批)論ジュリ22号(2017年)
      モザイク理論に親和的
    ③客観法的要素を権利論に織り込んだハイブリッド的思考による対抗
     笹倉宏紀「強制・任意・プライヴァシー」『井上正仁先生古稀祝賀論文集』(有斐閣、2019年)253頁
    ④純粋客観法による対抗
    稻谷龍彦『刑事手続におけるプライバシー権保護ー熟議における適正手続の実現を目指して』(弘文堂、2017年)

  2. 別件逮捕(浦和地裁平成2年10月12日)
    別件逮捕の意義
    検「もっぱら甲事件について取り調べる目的」
    判「文字通り『乙事件については全く取り調べる意図がなく、甲事件だけを取り調べる目的』と解すると『逮捕・勾留の理由・必要性が全くない事件について身体拘束した場合』と同義になり、わざわざ『違法な別件逮捕・勾留』」の観念を見出す実益がなくなる。
    このような議論を修正して「未だ重大な甲事件について被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として甲事件を取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることがない思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合」をも含むとする。
    同判決の別件逮捕の要件を考えると、
     Ⅰ 甲事件が逮捕の要件を満たさないこと
     Ⅱ 逮捕の実質的な目的が甲事件の取調べ目的であること
     Ⅲ 乙事件が「通常立件されることがない」「軽微な」ものであること。
  3. 検討課題
    Ⅰについては、問題ないだろう。Ⅱ→取調べのみに限定されるのか、逮捕時に付随して行われる自宅等の捜索・差押を目的とするものはこれにあたるとみてよい?Ⅲ乙事件の性質の判断基準があいまいー「軽微」これは法定刑のみを考慮してよいのか、事件の性質と対話を通じた判断をしてもよいのか。
    覚せい剤単純所持(本件)VS無銭飲食・詐欺(別件)となった場合、法定刑はどちらも上限10年(下限は刑法総則で1月)。法定刑は同一範囲であるが、事案としては被害額等を考慮すると後者(別件)が軽微であるといえる余地あり?