インターネット上の誹謗中傷問題

誹謗中傷問題の民事責任

これら情報法について概説された著名な専門書として、

曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説(第2版)』(弘文堂、2019年)がある。

発信者情報開示請求とプロバイダ責任制限法

プロバイダ責任制限法は、プロバイダ(特定電気通信)における情報の流通によって権利の侵害があった場合について、プロバイダ事業者の損害賠償責任の制限と発信者情報の開示請求権の規律について定めた法律です。

プロバイダの種類

ここでいうプロバイダには2種類のものがあります。まず、①ホスティングサービスプロバイダ(HSP)は、インターネットに接続されたサーバを運営し、その機能を顧客に利用させる役務(ホスティングサービス)を提供する者をいいます。具体例としては、レンタルサーバ事業者(ライブドア)、ブログサービス事業者(アメーバ、はてなブログ)、SNS事業者(Twitter、LINE)があたります。次に、②コンテンツプロバイダ(CP、CSP)があります。これは、デジタル化された情報を提供する者をいうと定義されており、インターネット接続事業者がポータルサイトを運営し、サイト上でニュースや娯楽記事を提供していれば、これらの情報との関係ではコンテンツプロバイダにあたるとされます。Yahooやmsnなどの検索エンジンを運営している会社がこれにあたります。さらに、③アクセスプロバイダ(経由プロバイダ、ISP)は顧客に対してインターネット接続サービスを提供するものと定義されています。これは、携帯電話回線や自宅のインターネット回線サービスを提供する会社がこれにあたります。

プロバイダ責任法の理念

プロバイダは、発信者に対して表現行為をするプラットフォーマーとしての地位にあります。そのため、プロバイダが安易に発信者の投稿を削除する事態となれば、プロバイダは発信者側から債務不履行に基づく損害賠償請求をされる可能性があります。そのため、プロバイダ側としては投稿の削除に消極的になるわけなのです。

一方で、誹謗中傷などの名誉毀損事案・個人情報が晒されるプライバシー侵害事案が放置されることとなれば、無秩序なインターネット空間になる危険があります。

ホスティングサービスプロバイダは、侵害情報を削除しなければ権利者から、非侵害情報を削除すれば発信者からそれぞれ損害賠償責任を追及されうるおそれがあるといえるのです。このような判断は専門家であっても困難であり、事業者の自主的対応を促進するためにはどのような行為規範に従えば法的責任を問われないか明確にしておく必要があります。

そこで、(1)送信防止措置(要は削除)を講じなかったために損害賠償責任を負いうる場合と(2)送信防止措置を講じても損害賠償責任を追わない場合をそれぞれ規定しているのです*1

不作為による損害賠償責任の制限

 第3条

1 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。

 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

 この条文は、プロバイダが侵害情報の送信防止措置を講じなかったことに関し、これによる損害を被った権利者との関係で損害賠償責任を追及されうることについて規定しています。

「送信防止措置を講じることが技術的に可能」(柱書)とは、通常の技術力のあるプロバイダ等にとって、社会通念上、必要な限度において送信防止措置を講じることが合理的に期待できることを指すとされています。

1号・2号はプロバイダ側の認識が要件となっており、第一に侵害情報の流通そのものを認識している必要があります。これについて認識がなければ、プロバイダ側に過失がなく、損害賠償責任も肯定されないこととなります。

作為による損害賠償責任の制限

第3条2項

特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び第四条において「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

 この条文の趣旨は、プロバイダ等が、送信防止措置を講じたことに関し、発信者との関係で損害賠償責任を負わない場合について規定したものです(作為責任の制限規定)。プロバイダは、上述のように非侵害情報までをも削除すれば、契約上の義務違反を根拠に損害賠償請求を追及されうるため、本項は作為責任を制限することで、プロバイダ等が損害賠償責任の追及を恐れて過度に送信防止措置を躊躇することのないようにする意義があります。

ここまで説明した、プロバイダの責任制限規定は発信者と請求者の板挟みにあるプロバイダの地位の特殊性、送信防止措置をめぐるプロバイダの負担除去という法の発想を端的に表わしているといえます。

匿名表現に関する法的紛争解決フロー

インターネット空間における匿名表現に関する法的紛争は、以下の裁判手続きを要します。

まず、①権利を侵害する匿名表現の発信者情報を開示をプロバイダ側に請求します(発信者情報開示請求権、法4条)。次に、プロバイダ側から開示された発信者情報をもとに、発信者本人に対して損害賠償責任を追及します。

このように、発信者情報開示請求をしなければならない理由は、現行訴訟法において匿名訴訟が認められていないからです。被告が特定されていない段階での出訴は、訴訟経済に反するといえるからでしょう。

発信者情報開示請求権

第4条

特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

権利侵害情報が匿名で書き込まれた際、被害者(権利侵害を主張する者)が、被害回復のために当該匿名表現者(発信者)を特定し、損害賠償請求等を行うことができるようにするのが本条の意義です。

4条1項1号「権利が侵害されたことが明らか」であるときとは、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせる事情が存在しないことをも含む趣旨と解釈されています。例えば名誉毀損の主張に対して真実性の抗弁が主張され、著作権侵害の主張に対して権利制限規定の適用が主張されるなど、発信者が一応の根拠を示して開示に反対しているときは、権利侵害が明白と認められる場合に限って、本項が適用されるのです。

2号の「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」とは、開示請求者が発信者情報の開示を受けるべき合理的必要性が肯認されることをいいます。発信者に対して民事責任を追求する目的などが典型例として挙げられます。

判例

侮辱的表現を含むものであったとしても,それが具体的事実を摘示して相手方の社会的評価を低下させるものではなく,人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価である名誉感情を侵害するにとどまる場合,直ちに法的保護に値するような人格的利益の侵害となるものではなく,それが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人格的利益の侵害と認められ得るにすぎない(最高裁平成22年4月13日大三小法廷判決)*2

この判決の要旨は、侵害情報の発信者についての情報開示請求に応じないプロバイダ(開示関係役務提供者)が、被害者(開示請求者)に対し不法行為に基づく損害賠償責任を負うのは、プロバイダが、被害者による開示請求がプロバイダ責任制限法4条1項所定の要件すべてを満たすことを認識しているとき、又は要件すべてを満たすことが一見明白であり、かつ、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失があるときのみであるということ。

そして、プロバイダ(開示関係役務提供者)が、インターネット上の掲示板の書き込みにより名誉毀損を受けたと主張する被害者(開示請求者)からの発信者情報の開示請求に応じなかった場合であっても、書き込みの文言それ自体が、具体的事実を摘示して被害者の社会的評価を低下させるものではなく、また、侮辱的な表現はその書き込み中の一語のみであり、特段の根拠を示さず、意見ないし感想として述べられているなど、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白であるということはできず、権利侵害が明白か否かの判断が容易ではないときには、プロバイダにプロバイダ責任制限法4条1項の重大な過失があったということはできないということが示されています。

*1:この(2)のように法的の行為規範に従えば免責されるという規定の方式をセーフハーバー規定といいます。

*2:本判決の評釈については、中村さとみ「判解」法曹時報65巻4号190頁所収、町村泰貴プロバイダ責任制限法の『特定電気通信役務提供者』とその責任」メディア判例百選第2版所収、和田真一「判解」民商法雑誌143巻4=5号461頁所収、前田雅英「ネット社会と名誉毀損<警察官のための刑事基本判例講座9>」警察学論集63巻6号144頁所収、池田秀敏「発信者情報開示請求に応じなかったプロバイダーの責任」信州法学21号147頁所収等をご参照ください。

22卒の僕が情報解禁日前に就活をやめる話

自己紹介

僕は都内の法学部に通う大学三年生、21年春から大学四年になる学生です。

大学一年のころから司法試験合格を目指して勉強を重ねてきました。

一年次から大学内の課外講座「法律総合講座(法曹)」を受講し、弁護士の先生や有資格者の研究者の先生と一緒に勉強してきたところです。

司法試験の受験資格は厳しく制限されており、①法科大学院を修了するか、②予備試験に合格することが求められます。この講座も、法科大学院に進学することを主たる目標にしているところ、

そこで目指すようになったのが、②予備試験ルートでした。

予備試験は合格者の平均受験回数が5回と言われるほど難しく、毎年の合格率は3%前後です。これは、受験資格に制限のない試験で最難関なのではないかと思っています(きちんと調べたわけではないですが、おそらくそうです)。

予備試験は早くから受けたほうが良い、という判断から大学三年の8月に初めて受験をしました。

結果は惨敗、一次試験で落ちました。点数は言うのも恥ずかしいほどの点数でした。

言うのはやめておきます。

就活を考えた経緯

予備試験に在学中受からずとも法科大学院に行こうと思っていたところ、それまで就活について特に考えることはなかったのですが

20年の予備試験受験後、就活をしようかと悩むことになりました。その原因は、コロナ禍の影響でオンライン授業の疲れが出たこと、予備試験に落ちたことで気持ちが沈んでいたこと、周りが就活をし始め気が焦ったこと・・・他にもあるかもしれません。

僕は自分のやりたいことがしたくても、つい周りの動向を気にしすぎる傾向がありました。心の中ではやりたいこと、関心があることがあっても、大勢に流されることが今までも多くあったのです。周りの人の顔を見すぎているのかもしれない・・・

だから一番就活を始める要因になったのは、周囲の動向だったように思います。

 

予備試験に落ちた理由は、明らかに勉強不足だったと反省しています。短答の過去問を丁寧にときすぎて数をこなすことを疎かになっていました。各科目30分の時間制限内で解き切る力をつけられず、延長された試験日を迎えてしまいました。オンライン授業により生活時間の夜型化が本番に適応できず、試験中に睡魔との戦いに堕ちそうになりました。(睡魔には勝てましたが・・・)

 

実際の就活では

先に周囲の動向を気にしすぎる自分について書きましたが、それは意見表明になると変わります。ゼミの議論であったり、友達と何かについて話あうときでは活発に何かを言うことはできます。それはどうしてか、自分の見解にはそれなりの根拠をもたせていたからだと今は思います。

・・・だからインターンのグループワークは結構得意だと思っていたのですが・・・

就活は法学部卒の学生が多く進むといわれている、証券会社と信販会社を中心にインターン参加しました。Webテストエントリーシートを出して、事前審査の後インターン参加が認められるというものです。

大手証券会社のインターンに参加した際の話

証券会社の今後のビジネスモデルを考える、という趣旨のテーマでグループワークをするという内容、4~5人で話合うというものだった。

与えられた資料にはその会社の商品やプランに関する説明、顧客に対するアプローチの仕方、詳しい説明をするなど細かい接客をメインにするビジネスモデルが含まれていた。

大口顧客様専用ラウンジ?証券会社に求められるのは安価な手数料と簡素な購入システムであって、そういう高級ホテルのような接客は求められていないのでは?と証券業界には疑問を持っていました。なにせネット証券が台頭しているなか、五大証券会社は指を咥えて見ているようにしか思えなかったからです。

指を咥えているとは言いませんでしたが、顧客にニーズの変化は反論できないほどの指摘だと思っています。購入・口座維持に手数料が1%以上かかるビジネスではなく、簡素化するのが良いのでは・・・というと後ろにこわあい人事担当者様が。他のグループメンバーが気まずい顔をしていた理由がわかりました。

「でもそれは、うちの会社の接客方針とは違うよね」と、就活では企業理念への共感が最重視される(?)ところこういうことを言われると致命傷なのです。

あとから聞いた話、他のグループは大学に出張授業に行くワークショップなどを提案しており、新たな顧客開拓×接客力という案をだしていてあぁ・・・という感じでした。

言葉と態度には気をつけていました。でもやっぱり丁寧な接客(対面重視)という相手方企業の社風とは合わなかったのだと思いました。そもそもそのインターンは、秋頃の比較的感染者数が落ち着いていた時期ではあったものの、対面実施の会社さんだったので・・・

就活をやめようと思った理由

まずは、就活をする意欲が低下したこと。これは裏をかえせば司法試験突破のモチベ回復したことが挙げられます。曲がれなりにも3年間勉強を続けてきた一方で、就活はそんなこんなで数ヶ月で萎えてしまった。

自分のやるべきことが一つに定まった以上、それ以外なことに注力するのは時間の無駄に感じました。それまでは、予備試験を受け、法科大学院入試を受け、さらにそのリスク分散として就活をするつもりでしたが、選考が集中する春先から6月頃にかけて予備試験・法科大学院入試も日程が重複します。

仮に内定が出たとしても、それを理由に甘えて勉強が後回しになる事態を避けたいと思ったというのもあります。法科大学院入試に受かった後内定を辞退するならば、内定をとった意味がないのでは?とも思ったからです。所詮内定を得てもやりたいことそれ自体ではないのですから。

この時期に就活をやめるという決断の背景には、早期先行組の内々定のタイミングが今頃だからというのもあります。別に内々定マウントをするのはその人達の勝手ですが、自分がここで就活をしないと決めておくことで自分の焦りを軽減することができるようになると考えたからです。そもそもコロナ禍でオンライン授業により同級生の就活状況の情報交換が少なくなり、それが焦りを増幅する要因になっているようにも思います。その一方で内々定マウントは聞こえてくるのが若干不思議なのですが・・・

 

就活を通じた反省

就活を模索して良かった

まずは、後悔したくなかったので、模索することは良かったと思っています。大学四年になってから「就活すればよかった」と後悔しても動き出しが遅ければ内定は出ません。勉強を続けるモチベーションは就活モチベより高かったのだと、実感できたのです。

本当に続けたことが自分にはわかりました、それが司法試験を目指し続けるということです。

反省点

とはいっても、もう少し自己分析をしておけばよかったと思います。法科大学院入試にも面接が課されるところもあるため、やっておいて無駄ということはないのかなと思っています。これは今からでもリカバリーできるかな。

後悔の残る反省点を挙げるならば、初動が遅かったというのと、インターン参加する企業を選ぶべきだったというところです。

対面実施が多い会社を受けたところ、時間を食ったということ、旧態依然の大手さんばかり受けたので、うんざりしたり失敗したりする経験が多かったことです。身近なネット証券・自分が普段使っているサービスの会社を受けていたら印象は変わっていたのかもしれないと思いました。

最後に、二年の頃から少しは就活について調べておくことくらいは、しておいても良かったのではと思いました。なにせ三年の夏に予備に落ちてから業界研究などを始めたので・・・業界研究はしておけば自分の知識の裾野を広げることもできたとは思いました。

 

最後に

お読みいただきありがとうございました。弁護士を大学一年から目指して勉強していたものの、周囲の動きを見すぎな性分から焦りを感じてしまいました。

勉強を続けて弁護士になるにせよ、就活をするにせよ、周囲よりも自分が何をしたいかという軸を持つ大切さを学んだ20年度後期でした。焦りを感じるのはきっと自信がないからなのでしょう。意見表明は苦にならないのは、自分なりの根拠を持っているから、根拠は自信を生むということだと気付かされました。

予備試験短答まであと89日と時間が迫っていますが、必ず予備試験短答で180点を取るという決意表明をもって、筆を置きたいと思います。勉強を続ければ、自信を支える実力という根拠がついてくることを信じてがんばります。

読者の皆様へ、心のどこかで僕のことを応援していただけると嬉しいです。

 

 

 

基本権としての個人データ保護 覚書

宮下紘『EU一般データ保護規則』(勁草書房、2018年)

総説

「基本権検証における個人データ保護の位置づけは、EUにおけるデータ保護法制を理解する上で象徴的である」(2頁)とある。象徴的である理由について、①個人データ保護の問題は、分野(警察司法なのか、ビジネスなのか)を問わず基本権であるという発想がある。個人データ保護の権利は「取引することができない(non-negotiable)」から、経済的利益によって個人データ保護の水準を下げることは許されない。②他の基本権分野と異なり、独立した監督機関が存在する。欧州ならではのアプローチであり、政府を含む公的部門を監視、適宜調査や是正をする権限も持ち合わせる。

個人データ保護法は1970年9月30日にドイツのヘッセン州で制定された。この法がこの分野で世界で初めてとなる先駆的な法である。国レベルの法律としては、スウェーデンがデータ保護法を制定した。歴史的経緯として欧州において情報に関する保護が基本権として高く保障されてきた理由は、ナチスドイツがユダヤ人迫害のために用いた身体的特徴・家系情報が記録されてきたパンチカードの反省がある。また、東ドイツのシュタージ(秘密警察)による監視活動の反省もある。

ゆえに、ドイツでは、個人データの関係およびその利用について原則として自ら決定する権利である「情報自己決定権」が重要な基本権と考えられており、いまでは欧州全域で浸透したものである。

1970年代・・・フランス「サファリ」政策

国家統計局が社会保障番号の個人識別のための排他的な道具として用い、教育、軍隊、医療、雇用等に関係する他の行政期間とのデータマッチングを可能とする仕組みを導入。これにたいして、批判があがった*1

1950年代・・・欧州評議会は欧州人権条約を公布し、その8条で「すべての者は、その私生活、家族生活、住居および通信の尊重を受ける権利を有する」と明文化した。

1980年代・・・各国でデータ保護法制が制定されるようになり、OECD経済協力開発機構)のプライバシーガイドランが採択された。「個人データの自動処理に係る個人の保護に関する条約第108号」(以下、「条約108号」)が採択された。

欧州共同体は、すべての加盟国が評議会の加盟国であり、各々国内法を制定することに尽力した。加盟国間の資本や労働力、財とサービスの流通促進に寄与することを狙いとしたが、条約108号をめぐっては各国の意思解釈の異なりが現れた。そこで、1995年にはEUデータ保護指令が採択され、この指令に基づき加盟国では個人データ保護に関する国内法の整備や改正作業が開始された。EU域内の統一的解釈を意図してデータ保護監督期間やデータ保護監査官から構成される部会が設けられた。

EUデータ保護指令をめぐっては、基本的に加盟国に対して個人データ処理に関する規定をもつ国内法の立法化を義務付けるというものにとどまるものであった。そのため、加盟国間で不統一的な制度と運用が生じ、英国やアイルランドは緩く、ドイツやフランスは厳しいという指摘もある*2

このような、EUデータ保護指令の欠点と、インターネット利用者の急増を背景に、「忘れられる権利」としてインターネットの個人情報の削除請求の問題が深刻化した。例として、オーストリアの学生がfacebook社(アイルランドに所在)に対して自己の情報の削除を請求したいと考えたとき、アイルランドの法でデータ保護期機関に苦情の申し出をしなければならない。これは、EUデータ保護指令が加盟国で不統一な制度を生み出したことによる問題であり、国内立法を必要とせず直接に適用される「規則(regulation)」が求められるようになった。

このような不都合を解消するために制定されたのが、GDPREU一般データ保護規則)である。これにより加盟国間の規則を不完全に適用することや、規則の規定を選別する権限は、加盟国に認められなくなった。ゆえに、欧州全域に等しく同規則が適用されることとなり、不統一的な制度や運用の欠点も補われたのである。

 

 

*1:清田雄治「フランスにおける個人情報保護法制と第三者機関」立命館法学2005年2・3号(2005年)145頁

*2:藤原静雄「EU個人情報保護法制の動向」園部・藤原編「個人情報保護法の解説(第二次改訂版)所収

代金払ったのに納車されない、「事故車」を告げずに売る中古販売業者

代金払ったのに納車されない、返金にも応じず・・・「事故車」と告げずに売りつける中古販売業者の手口

https://news.yahoo.co.jp/articles/ff2d64dc87a5d5e7e4bbd68431307987365f8396?page=2 (8月12日最終閲覧)

 

  • 岐阜市の中古車販売会社で、購入した客から「代金を支払ったのに納車されない」「実は事故車だった」など、詐欺的な被害を訴える声が多数あがっていることがわかりました。
  • 男性・「(中古車店が)『大変コンディションが良好。不都合箇所などはございません。ご安心ください』と書いてあったりとか、ナビを付けてもうちょっと…と言ったら、じゃあナビを付けて270万円にするよと」
  • 男性は納車前の不具合を不審に思い、陸運局で車の所有履歴を調べたところ、わかったのは驚きの事実でした。
  • 男性:
    「去年の登録の車だったんですが、初年度の登録の方と連絡をとることができて確認しましたら、『昨年の九州の豪雨の際、水没した車だったんだよ』と」
  • 男性は弁護士を通じて、購入をやめると通告し、契約時に支払ったおよそ270万円を直ちに返すよう何度も求めてきました。しかし、業者は返金に応じていません。

弁護士の見解として、販売業者(売主)は「事故車」である旨を購入者(買主)に通知する義務はないとする。一方で、消費者契約法4条2項本文の「消費者の不利益となる事実を・・・故意・・・によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし」それによって契約の申込み・承諾の意思表示をしたときは取り消すことができることを説明している。

消費者契約法上実体法の観点からは、買主の売買契約の取消が当然に認められる事例といえる。水没車の説明に「コンディション良好」と書いている時点で、購入の判断に関する重要な事実を偽っているし、売主もこれを認識している以上一般法(民法)の詐欺取消(96条)もできるのではないかと思った。

契約不適合責任(旧法のいう瑕疵担保責任)はあくまで売主・買主が契約当時にその瑕疵が隠れていたときの責任の所在に関する規律であるから、本件には及ばない議論である。

詐欺罪(刑246条1項)にあたるかどうかも、売主が水没車であるかどうかという契約の判断に関する重要な事実について偽っているから、「欺」く行為があるといえる。そして、この欺罔によって買主はコンディション良好な中古車として購入し、代金270万円を支払っているところ、詐欺罪は既遂に至っている。

詐欺罪の実行の着手時期は行為者が詐欺の意思で人に対して欺罔行為を開始した時点であり、既遂時期は財物(または利益)が行為者側に移転したときである。代金支払い時点で270万円の財物が売主に渡っているから既遂といえる。

買主は気の毒だと思う、名古屋地裁民事訴訟を起こしたというが、「被告は出廷していない」という。第一回口頭弁論期日に被告が出廷するケースってなかなかないのでは・・・?被告代理人でも第一回は答弁書を提出して欠席することもあるし、出廷したかどうかよりは答弁書出したかどうかが気になる。

答弁書提出されていなかったら原告の請求認容判決が第一回期日で出るはずなので、その旨の記載がないことからすると、被告は答弁書くらいは出したんだろうな(推測)

 

↓契約不適合責任に関する説明については潮見『債権各論Ⅰ』を参照してください。

 

消費者契約における規律については基本講義消費者法第4版(法セミLAW CLASSシリーズ)が明るい

 

 

第1回 プロ野球選手会肖像権訴訟

はじめに

日本のプロ野球において、選手個人が自ら肖像権を管理するのではなく、球団側が管理してきた。2000年に日本野球機構が3年間にわたってゲームに関する肖像等の利用を特定のゲーム開発会社に独占させる認可(以下、「独占認可」)を与えた。選手会側は競争によって様々な魅力あふれるゲームを生み出すことで、プロ野球界全体の魅力度向上を企図していたために1社独占状態による弊害を除去するために訴訟に至った。

内容・判決についてのメモを加え、肖像権に関する見解や一般的な学説について紹介した後、若干の私見を記しておきたい。

肖像権訴訟の内容

参考文献
  • 升本喜郎「プロ野球選手の肖像権に関する使用許諾権限の所在」(コピライト550号30頁所収)
  • 丹羽繁夫「プロ野球選手のパブリシティ権をめぐる諸問題:東京地判平18・8・1が積み残した課題」(NBL858号40頁)
  • 花本広志「プロ野球選手と所属球団との間において、プロ野球ゲームソフト及ぶプロ野球カードにつき、球団が第三者に対して選手らの氏名及び肖像の使用許諾をする権限を有しないことの確認請求が棄却された事例:プロ野球選手肖像権訴訟第一審判決」(判例時報1981号206頁)
  • 諏訪野大「プロ野球選手の氏名及び肖像の商業的利用権(パブリシティ権)が統一契約書16条によりプロ野球球団に独占的に使用許諾されていると認められた事例」(慶應法学81巻4号77頁所収)

最高裁平成22年6月15日第三小法廷決定 (LEX全文入手不可のため収録なし、書誌のみ)

知財高裁(控訴審)平成20年2月25日判決

事実の概要

原告:

高橋由伸・上原浩二・阿部慎之助(巨人)

宮本慎也・渡会博文・五十嵐亮太古田敦也(ヤクルト)

鈴木尚典三浦大輔相川亮二(横浜)

井端弘和岩瀬仁紀福留孝介森野将彦(中日)

今岡誠赤星憲広福原忍濱中治阪神

黒田博樹新井貴浩小山田保裕(広島)

小笠原道大金子誠金村曉木元邦之日本ハム

小林雅英福浦和也渡辺俊介(ロッテ)

松坂大輔星野智樹(西武)

川越英隆阿部真宏高木康成オリックス

楽天ソフトバンクについては訴訟に参加していない。理由不明

 

被告:

巨人、ヤクルト、横浜、中日、阪神、広島、日本ハム、ロッテ、西武、オリックス各社(楽天ソフトバンク除く)

統一契約書16条の契約文言

本件訴訟はプロ野球選手と所属球団間で締結される統一契約書の文言の解釈およびその有効性が問題とされている。

 第16条

           球団が指示する場合,選手は写真,映画,テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお,選手はこのような写真出演等にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し,また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても,異議を申し立てないことを承認する。

           なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき,選手は適当な分配金を受けることができる。

           さらに選手は球団の承諾なく,公衆の面前に出演し,ラジオ,テレビジョンのプログラムに参加し,写真の撮影を認め,新聞雑誌の記事を書き,これを後援し,また商品の広告に関与しないことを承諾する。

 選手会側(原告)の主張

 日本プロ野球選手会公式ホームページ

この点、この統一契約書16条を読むと、「球団の選手だから球団の宣伝には協力してください!」ということが規定されているにすぎないことから、そのように主張を行いました。
 つまり、この条文が述べていることは、次の3つに限られています。
 ①(撮影について)
 球団が求めた場合、選手は写真撮影、映画撮影、テレビ撮影に応じること
 ②(撮影された"もの"についての権利の帰属について)
 この写真撮影、映画撮影、テレビ撮影に関係のある肖像権、著作権が球団に帰属すること
 ③(撮影されたものの利用について)
 この際撮影されたものを球団が「宣伝目的のために」利用してもかまわないこと

 特に注意が必要なのは、次の点です。 ①については、明確に写真撮影、映画撮影、テレビ撮影の3つに限定され列挙されています。②については、①をうけ「このような写真出演等」とされており、この3つに限られた権利の帰属であることが明らかです。 ③については、あくまで球団の宣伝目的に利用してもかまわないといっているに過ぎず、「球団のポスターなどに利用してもいいですよ。」と書いてあるに過ぎません。

 この契約条項は、プロ野球の宣伝目的での肖像利用を許容するものであって、商品化のための肖像利用を許可したものではないから同認可は違法であるというものである。

本件での争点は、①本件契約条項の有効性(信義則、公序良俗違反からの検討)、②本件契約条項の解釈(氏名及び肖像の使用権の譲渡又は使用許諾の有無)である。

第一審判決             東京地裁(第一審)平成18年8月1日判決

本件契約条項の解釈について

被告らの主張

要旨

       原告ら各選手の氏名及び肖像の商業的利用権たるパブリシティ権は,次のとおり,本件契約条項に基づいて,被告らに譲渡されているか,又は独占的に使用許諾されている。

(1)条項の文言

       本件契約条項1項は,球団が指示する場合に,所属選手が写真等に撮影されることを承諾する旨を定めているが,ここでいう「球団が指示」には,球団の一般的な指示(練習風景の撮影等の場合)と個別的な指示(カレンダー,コマーシャル・フィルム等の製作のためにする撮影等の場合)とがあり得る。
 そして,同項は,球団の指示により撮影された所属選手の写真,映画,テレビジョンに「かんする肖像権,著作権等のすべてが球団に属し」ていることを所属選手において承認する旨を定めているが,ここで「属し」というのは,あたかも原始的に一方の契約当事者が支配権を持つような態様で,つまり,個別の譲渡等の意思表示を必要とすることなく,一方契約当事者が権利を取得するという趣旨で用いられるものである。そうすると,かかる「属し」という文言からしても,同項は,選手らの肖像権のうち財産権としての商業的利用権(パブリシティ権)を,少なくとも野球選手契約期間中について,球団に譲渡する趣旨のものと解すべきである。
 仮に同項の文言解釈から肖像権のうち財産的な権利(パブリシティ権)を契約の存続期間の範囲で球団に譲渡したといえないとしても,本件契約条項1項には,「選手はこのような写真出演等にかんする肖像権,著作権等のすべてが球団に帰属し,また球団が宣伝目的のためいかなる方法でそれらを利用しても,異議を申し立てないことを承諾する。」と規定しているのであるから,同項は,選手が球団の指示に従い写真,映画,テレビジョン等に撮影されることを契約上義務付けるとともに,当該契約の存続期間,選手に帰属する氏名及び肖像の財産的価値に関する権利,すなわちパブリシティ権を球団が球団の宣伝目的という営利目的のために独占的に使用することを許諾したものであることは明らかである。

(2)「宣伝目的の意義」

       本件契約条項1項は,球団が所属選手の肖像等を「宣伝目的のためにいかなる方法で」も利用できることを定めているが,ここで,「宣伝」とは,球団を公衆に周知させ,広く球団に関心を持ってもらうような行為を指すものということができる。
 さらに,球団はプロ野球組織に属することを当然の前提とし,プロ野球が普及し発展することをその存立基盤とするものであるから,プロ野球組織の一員としての球団,並びに球団に属する選手,更にプロ野球組織そのものを広く公衆に訴求し,認知させ,プロ野球の人気を高めることを目的とする行為はすべて同項にいう「球団」のための「宣伝目的」の行為であり,このために利用することが,同項にいう,球団の「宣伝目的のため」の「利用」である。

       我が国においてパブリシティという語が普及したのは近々20年ほど以前からのことであり,それまでは,適当な訳語がなかったので,「宣伝目的」としただけのことである。現在通用しているパブリシティに当たる語として「宣伝」と表現したものであり,宣伝という日本語の辞書的な意味からみても,これをことさら狭く解釈しなければならない理由はない。

 (3)本件条項の解釈の合理性

まず、1項の文言に限定がないことを挙げている。

      本件契約条項1項では,「宣伝目的」について述べる前に,「肖像権(中略)のすべてが球団に属し」と無制限に広く規定されているところからみて,「宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても」という部分が,球団の権利の行使を「目的」の点から制限しようとしたものとみることはできない。

 選手の肖像を利用することにより、球団ひいてはプロ野球の人気を高め、これによって球団・選手双方の利益を図ることができるとしている。商業化であるか否かを問わず、「宣伝目的」にあたると解釈するべきだと主張している。

 

2項の存在について

     「宣伝目的」を狭義に解すると,宣伝をしてもらう側(球団)が,第三者に対し金員を支払うのが通常であり,第三者から金員の支払を受けるという事態は本来ないはずである。ところが,同2項は,「なおこれによって球団が金銭の利益を受けるとき,選手は適当な配分金を受けることができる。」と定めており,同1項に規定する肖像の利用について,金銭を受けることがあり得ることを前提にしている。

     選手の肖像が,「写真,映画,テレビジョン」に撮影された結果,それが広く商業的に利用されることを認めた条項であると解すべきである。すなわち,ここでいう宣伝目的の利用とは,パブリシティ権の活用をも当然に含む意義のものであって,このような利用により,球団及びプロ野球組織の存在を公衆に周知させ,広く球団プロ野球組織に関心を持ってもらったり,プロ野球の人気を高めることに資する限り,「宣伝目的」である。

 3項について

     選手が自由に,商品の広告に自らの肖像を利用し得るとすれば,同1項に定めた球団の選手の肖像権の球団への譲渡又は独占的使用許諾及び球団によるその「宣伝目的」のための利用権は空洞化し,無意味なものとなることは確実であるので,かかる行為については,球団からあらかじめ承諾を得ることとしているものである。これは,選手の利益を尊重するとともに球団の利益や信用が不当に害されることのないよう,調整を図る趣旨に出たものである。
同3項は,このように,球団の承諾なく,選手が商品の広告に関与することを禁じているから,選手が,その肖像についても,その経済的価値に基づき(少なくとも商品に関連した)商業的な利用を行うことを禁じている。

 

 

8月3日 メモ

  1. 「電話の傍受と通信の秘密」 判例百選59事件
    コメント①
     立山紘毅『電話の傍受と通信の秘密』「憲法判例百選Ⅰ[第7版]」(有斐閣、2019年)所収131頁 「通信傍受法29条に基づく2019年2月の国会報告によれば、2018年1年間で1万回を超える傍受が行われたのに対して、逮捕に至ったのが82人というから、それほど効率の良い捜査手法とも思えない。」
     通信傍受法3条1項柱書は「他の方法によっては、犯人を特定し、又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」と定めている。(=捜査手法としての補充性)この点からそもそも通信傍受の対象になる犯罪は、捜査が難航している事件であることが予測されるところ、検挙件数の少なさが直ちに通信傍受の捜査手法としての有効性がないことを裏付ける根拠になるとは思えない。


    コメント② 通信の秘密の意義について
     通信の秘密の対象として保護される情報は、(ア)通信の内容に限定されず、(イ)通信の構成要素までをも含むと考えられている(曽我部真裕『通信の秘密』法セミ786号所収62頁)。通信の内容とは、電話の通話内容や電子メールにおけるメールの本文、チャットの内容(TwitterのDMやLINEのトーク等を想定)が挙げられる。何も電話におけるやり取りに限定されず、通信手段全般における用件や本文を包含すると考えているといって差支えないだろう。通信の構成要素は、発信者・受信者の氏名や住所、通信が行われた現在地等
    →通信の構成要素に関する情報から、通信の内容を推知することができる
    →通信の内容だけでは足りず通信の構成要素まで広げて秘密の対象にする必要がある?

    コメント③ 清水真の解説を参照する(清水真『電話検証』「刑事訴訟法判例百選[第10版]」所収70-71頁
    「筆者自身は、監視対象車両に元々積載されているカーナビゲーションシステム等のGPS識別番号を捜査機関が把握し、当該車用の位置情報を探知する、いわゆる非接触型監視は任意処分にとどまるものと考えるが(清水真「GPSと捜査」法教427号41頁以下)、仮に、公権力による一定期間の徹底的・網羅的な位置情報の監視は尾行・張り込みとは質的に異なるという見方を採り、強制処分だと考えるならば検証許可状によることになろうし、本決定の枠組みが参考になるかもしれない。」

    GPS判決(最高裁平成29年3月15日大法廷判決)をめぐって展開される位置情報のプライバシー性と清水の見解はどのような位置関係にあるのか?(位置情報だけに笑)
    領域プライバシー権から空間プライバシー権へ、取得時令状主義のみならず使用時令状主義?
    情報社会の目覚ましい進展によってさらに捜査機関が収集ないし取得する情報がセンシティブなものになるということはあり得るし、AIが捜査法に登場するとなおプライバシー権との規律で様々な問題を先鋭化させかねない。
    AIは社会のスティグマを再度現出させる”差別”発見機

    コメント④ 警察による情報監視への憲法的対抗
    「AIと社会と法 フェイクとリアル」論ジュリ33号(2020年春)第9回 山本龍彦発現より
    ①領域プライバシー権による対抗
     井上正仁・刑事訴訟法百選[10版](2017年)67頁
    ②情報プライバシー権による対抗
      堀江慎司(判批)論ジュリ22号(2017年)
      モザイク理論に親和的
    ③客観法的要素を権利論に織り込んだハイブリッド的思考による対抗
     笹倉宏紀「強制・任意・プライヴァシー」『井上正仁先生古稀祝賀論文集』(有斐閣、2019年)253頁
    ④純粋客観法による対抗
    稻谷龍彦『刑事手続におけるプライバシー権保護ー熟議における適正手続の実現を目指して』(弘文堂、2017年)

  2. 別件逮捕(浦和地裁平成2年10月12日)
    別件逮捕の意義
    検「もっぱら甲事件について取り調べる目的」
    判「文字通り『乙事件については全く取り調べる意図がなく、甲事件だけを取り調べる目的』と解すると『逮捕・勾留の理由・必要性が全くない事件について身体拘束した場合』と同義になり、わざわざ『違法な別件逮捕・勾留』」の観念を見出す実益がなくなる。
    このような議論を修正して「未だ重大な甲事件について被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として甲事件を取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることがない思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合」をも含むとする。
    同判決の別件逮捕の要件を考えると、
     Ⅰ 甲事件が逮捕の要件を満たさないこと
     Ⅱ 逮捕の実質的な目的が甲事件の取調べ目的であること
     Ⅲ 乙事件が「通常立件されることがない」「軽微な」ものであること。
  3. 検討課題
    Ⅰについては、問題ないだろう。Ⅱ→取調べのみに限定されるのか、逮捕時に付随して行われる自宅等の捜索・差押を目的とするものはこれにあたるとみてよい?Ⅲ乙事件の性質の判断基準があいまいー「軽微」これは法定刑のみを考慮してよいのか、事件の性質と対話を通じた判断をしてもよいのか。
    覚せい剤単純所持(本件)VS無銭飲食・詐欺(別件)となった場合、法定刑はどちらも上限10年(下限は刑法総則で1月)。法定刑は同一範囲であるが、事案としては被害額等を考慮すると後者(別件)が軽微であるといえる余地あり?

8月1日 メモ

  1.  孔子廟無償供与政教分離訴訟



  2. 破産者情報サイトについて

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